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ニッポン無責任時代  (1962)監督・古澤憲吾


開始より0:14(東京都千代田区大手町2丁目・大和証券ビル)

太平洋酒の氏家社長(ハナ肇)が本社に出社し、秘書の佐野(重山規子)が出迎える。
ここは大手町にある大和証券本社ビル前だ。この大和証券本社ビルはクレージーシリーズ、社長シリーズなど、東宝のサラリーマン喜劇には数多く登場していて聖地中の聖地と言っていい。
5年程前に一度訪れたことがあるのだが、今回は同好の方たちと一緒に巡礼させていただいた。
当時は近代的な建築であったのだろう。いや、現在でも東京の中心地にガラス面積が多い、モダンな佇まいを見せてくれている。しかし何といってもこのニッポン無責任時代からでも45年、細部には傷みも見え、いたわしい気持ちにもさせてくれる。(2007年記)



(撮影・2007・08・05)
↑ 玄関から張り出している屋根が少し短くなったようだ。交差点をはさんで向こうに見えるビルも健在だ。

追記・2007年に大和證券本社は移転、2009年にはビルの使用が中止され、建物全体が工事用パネルに覆われた。ついに解体の時が来てしまった、と思われたのだが事態は意外な展開に。解体工事ではなく、実は改修工事だった。
2010年の初め、パネルが取り払われると生まれ変わった姿が表れた。さらに近代的にはなったが、その分、昔の面影は少ない。解体は免れたものの、複雑な想いがする。(2010年記)

↓ さらに追記・2017年、この改修されたビルも解体の時が来た。この写真撮影時にはパネルの隙間から覗くと、もうビルは跡形も無かった。(2018年記)


(撮影・2018・05・04)







開始より0:15(東京都渋谷区恵比寿南・JR恵比寿駅前)

上のシーンの直後、社長室にもぐり込んだ平均(たいらひとし)(植木等)が社長になりすまして芸者まん丸(団令子)からの電話を受けるシーン。社長室にいる植木は円内に入り、団が外から電話をかけている。
わずかに「えびす駅」と書かれた看板が見えたので、JR恵比寿駅に行ってみる。どうやら西口ロータリーで間違いないようだ。
しかし恵比寿駅には駅ビルが出来てしまい、面影はかなり少ない。電車はこのビルの向こう側を通っているので、このアングルからではほとんど見えない。
よく見るとこのシーン、恵比寿駅前の風景と芸者まん丸は合成のようだ。恵比寿駅前を撮影した映像に、撮影所で撮られた団と電話、上部のテントが合成されているのではないだろうか。さらにその合成画面に円内の植木がはめ込まれていると思われる。



(撮影・2007・08・19)
↑ 現在の写真の左端にある樹木と駅ビルとの隙間に走行する山手線がわずかに覗いている(矢印)。
右端に見える樹木は45年の間に生長したものなのだろうか。




開始より1:15(東京都渋谷区恵比寿南)

佐野のアパートから出かける平と佐野。 この二組の場面はカメラがパンするワンカットだ。
ここも恵比寿である。恵比寿駅西口から目黒方向に向かった線路沿いの坂道だ。 線路と道路との境は、当時は木製の杭に針金の簡単な物だった。恵比寿とはいえ、のどかな感じさえする。 線路と道路の位置関係、高低差は変わってないと思うが、ここも雰囲気は大きく変わってしまったようだ。



(撮影・2007・08・19)




(撮影・2007・08・19)
↑ 恵比寿駅ホームに隣接する坂道なのだが、現在も比較的閑静な通りだ。しかし線路と道路を区切るフェンスが立ったり、駅前方面には高いビルも建ち、見晴らしの良いのどかな雰囲気は無い。

「恵比寿は山手線なのに、なんでグリーンではなく、黄色い総武線のような車両が走っているのだろう」と思われる方も多いだろう。「ニッポン無責任時代」が製作された1962年当時、山手線(この頃は「やまのてせん」ではなく「やまてせん」と呼んだ)の車体色は黄色(カナリヤイエロー)だったのだ。このシーンに写っているのは101系という車両である。しかしその後、1963年に山手線には新型車両103系が投入される。その時に山手線の車両はグリーン(ウグイス色)になった。そしてそれまで使用していた黄色い101系は、そのままの色で総武線へ転属になったのだ。それが現在でも引き継がれ、総武線は黄色、山手線はグリーンとなっているというわけだ。




開始より1:19(東京都渋谷区猿楽町)

車に乗っているまん丸が歩いている佐野を偶然見つけ声をかけるシーン。
やはり恵比寿に近い所にある猿楽橋(さるがくはし)という陸橋だ。下には山手線が通っている。
東京の平凡な一風景というか、どうということのない場所なのだが、不思議と印象に残っているシーンだった。
ここは何処なんだろう、と以前から思っていたのだが、場所がわかってみると、個人的には何度も通っている道だった。今まで通っていて全く気がつかなかった。映画で見るのとは雰囲気が全然違っている。もっと広々とした、見晴らしのいい場所だと思っていた。しかしそれは勘違いではなく、実際45年の間に変わってしまったということだ。
遠くに東急東横線が横切るガードが見える。



(撮影・2007・09・09)




(撮影・2007・09・09)
↑ 佐野を乗せて走り去るまん丸の車。
この猿楽橋の下は「大冒険」で植木が車にはねられそうになり、ジャンプするシーンの撮影にも使われている。向こうに見える「テレビ工学専門学校」というビルはそのシーンでも見えている。しかしそのビルは今はもう無い。(「大冒険」の項参照)

(協力・メタBOの若大将さん)




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